AI時代にデータの保管方法はどう変わるか

AI時代にデータの保管方法はどう変わるか

2026-06-25Written by: Suwa
workingroom
OSS
こんにちは。株式会社kairo代表の諏訪です。
先日、弊社として初めてのOSSである WorkingRoom をリリースしました。
WorkingRoomは、人間とAIが管理されたアクセス権限のもとでデータにアクセスする環境を提供する、組織やチームのためのワークスペースWebアプリケーションです。
この記事では、WorkingRoomを開発するきっかけとなった、AI時代におけるDropboxやGoogle Driveなどの共有ストレージのあり方や使い方の再考について書きました。

ストレージの利用者はAIになる

共有ファイルストレージの便利さと課題

様々な組織において、プロジェクト資料や営業資料、設計書、議事録などをGoogle Driveといった共有ファイルストレージに保存し、必要な人が必要なタイミングで閲覧・編集するという運用が一般的です。
この仕組みは、主に人がデータを扱うことを前提に設計されており、社内の膨大なデータを一元管理することができつつ、部署や個人単位でのデータアクセス管理が可能であるため、ほぼすべての企業において必須なツールかもしれません。
非常に便利な共有ファイルストレージですが、その一方で、実際に運用してみると次のような課題も生まれます。
  • ファイルの命名規則を決め、それを守らせる必要がある
  • 「どこへ保存するか」というルールを周知する必要がある
  • 必要な資料を探す時間が意外と長い
  • プロジェクトごとにアクセス権限が複雑になっていく
どれも一度は経験したことがある話ではないでしょうか。いわゆる、「フォルダを綺麗に使う」ことで、社員は必要に応じて素早く情報を取り出せる環境を維持できるということですね。
また厳密なファイルストレージ運用は、機密データを守るためにも大変重要となるため、多少運用ルールが複雑になってしまっても、人がルールを守ってファイルストレージを使うということが大切です。
しかし、実際に完璧な運用を行うことは不可能であり、もしくは多大な教育コストがかかります。
このような、共有ファイルストレージの運用におけるさまざまな課題は、「人間が直接ファイルを探し、読み、編集する」という前提から生まれる課題です。
fig-pre-ai

データを取り扱う主体がAIになる

私は、AIがますます一般的になる今後、ファイルやデータを扱う主体は人間からAIへ移ると考えています。
これまで人間は、自分でフォルダを開き、ファイルを探し、内容を読み、必要な情報を整理していました。
しかし今後、人間はAIに依頼し、AIがデータを検索・読み込み・編集・要約することが自然になっていくでしょう。
すでにMCP(Model Context Protocol)を使った、AI <=> システム 間のデータ連携が進んでおり、「AIがメールを直接確認し、返信を書く」などの事例が数多く出てきています。
つまり、人間とデータの間にはAIが存在し、以下の図のようにAIが橋渡し役を担う構成です。その結果、人間が直接ファイルを操作する機会は大きく減っていくと考えています。
fig-post-ai
このような構成に変わっていくことで、以下のメリットが考えられます。

1. 人間は「ファイル」を意識しなくてよくなる

例えば、
「先週のお客様との打ち合わせで決まったTODOを教えて」
とAIへ聞けば、議事録を探し回ることなく答えが返ってきます。
人間は「どのフォルダにあるか」「ファイル名は何だったか」を覚えておく必要がありません。
逆に、会議が終われば、その会話内容からAIが議事録を作成し、適切な場所へ保存することもできます。
ファイルというデータ構造は依然として存在しますが、人間はそれを直接操作する必要がなくなるのです。
「人はモノを探すのに人生の半分を使う」と言われるほど、私たちは探すという行為に時間を使っていますが、デジタルデータの世界においては、この問題は解決されるかもしれません。

2. 情報理解の負荷が大きく下がる

これまで人間は、大量の資料を読み、その中から必要な情報を探していました。
AIが間に入ることで、人間は要約された情報や必要な情報だけを受け取れるようになります。
さらに、
「この提案の懸念点は?」 「前回との違いは?」 「この仕様変更による影響は?」
といった追加の問いを、その場でAIへ投げることもできます。
情報を読むだけではなく、対話しながら理解できるようになるため、人間が処理できる情報量は大きく増えるはずです。

共有ファイルストレージに求められるものも変わる

このように考えると、AIが業務の主体となる今後、共有ファイルストレージには、これまでとは異なる要件が必要になります。
これまで重要だったのは人間が管理しやすいことでした。
一方、これから重要になるのは、「AIにとって、効率よく安全にデータを扱えること」です。
例えば、私が重要だと考えているのは次のような要件です。

1. AIのトークンコストを意識した設計

AIは文章を読むたびにトークンを消費します。
つまり、ストレージの設計次第でAIの利用コストは大きく変わります。
巨大なファイルを毎回読み込むのではなく、必要な部分だけ取得できることや、差分だけを扱えることは、これまで以上に重要になります。
この点については、OpenAIなどの各種AIベンダーが提供する、Cache API や Bulk API を積極的に使うといった対応も大きく寄与します。

2. データ編集履歴を残す

当然ながらAIは人間には真似できないスピードと量でデータを処理します。
その過程でファイルを誤って削除したり、間違った情報を挿入してしまうといった可能性を完全に排除することは不可能です。
そのため、ファイル編集履歴をバージョンとして残し、どのバージョンにも復元できるような仕組みが必要となります。
他にも見落とされがちなのは、「編集履歴そのものもデータ資産」であるということです。
編集履歴には、「レビュアーから指摘された内容」など改善の履歴が含まれています。人間には負荷が高く、処理しきれなかった差分データについても、AIなら分析・構造化が可能です。
これまで、「データ分析 = 数ヶ月がかりのプロジェクトやシステム構築」でしたが、とりあえずデータを残しておき、AIに要約させることが容易になりました。

3. AIが「人間の代理として」安全にアクセスできる権限管理

AIは人間以上に大量のデータへアクセスできるため、アクセス権限はこれまで以上に重要になります。
ただし、AIそのものが社会的な責任を負えるわけではありません
実際に責任を持つのは、そのAIを利用している人間です。
そのため、AIには独立した権限を与えるのではなく、「誰の代理としてAIが操作しているのか」を常に明確にする必要があります。
例えば、営業担当者がAIへ「契約書を要約して」と依頼した場合、AIが閲覧できるのは営業担当者自身が閲覧権限を持つ契約書だけであるべきです。
管理者しか閲覧できないファイルを、AIだからという理由で読み取れてしまってはいけません。
AIはあくまで人間の代理人であり、人間の権限を超えて行動してはならないという考え方です。

WorkingRoomで目指したもの

こうした考えから開発したのが WorkingRoom です。
WorkingRoom は、人間とAIが同じデータを共有しながら、安全に共同作業するためのワークスペースです。
AIは、それを呼び出した人間が持つ権限の範囲だけを読み書きし、人はチャットを通じて自然にデータへアクセスできます。
私は、AIがデータを読み、編集し、整理する役割を担うようになっても「ファイル」がなくなるとは考えていません。ただ、人間がファイルを直接扱う機会は、これから少しずつ減っていくと思っています。
その変化に合わせて、データ置き場そのものも変わるべきではないか。それが WorkingRoom を作ろうと思った一番の理由です。
WorkingRoom は Apache License 2.0 で公開しているオープンソースソフトウェアです。クラウド環境だけでなく、自社サーバーなどクローズドな環境でも利用できます。
この記事を読んで共感していただける部分があれば、ぜひご意見をいただけると嬉しいです。また、コントリビューターとして開発に参加していただける方も歓迎しています。